2020/06/02
テレワークでおさえるべき労務管理8選!経営者・総務担当者必見

2013年9月7日。日本中を歓喜の渦に包んだ2020年東京五輪招致決定の瞬間。その時に誰が2020年の本大会の延期を予想できたのでしょうか。そして、今後も新たなウイルスの蔓延により、今回断行したテレワークを中心としたビジネスモデルを「モデルケース」とすることは想像に難しくないでしょう。

今後、日本においてもAI導入は決定的です。AIには当然、労働基準法は適用されません。しかし、人間には適用されます。リーマンショックが2008年に起こり、コロナ危機発生が2020年。同じスパンで再発としても情報が氾濫する現代において12年前のことを覚えていられるでしょうか。緊急事態宣言が解除されましたが、今後一斉に満員電車に戻って下さいという流れになっていくでしょうか。テレワークは今後、上手く活用していくべきです。

しかし、対象が人間である以上、法律から脱却することはできません。今回は経営者・総務担当者からの視点で、テレワークにおける適切な労務管理やおさえておくべき点を解説していきます。

 

もくじ

1. そもそもテレワークとは

テレワークとは情報通信機器(ICT)を活用し、場所や時間を選ばずに働けることで、テレ(離れた場所)、ワーク(働く)とされています。2020年のコロナ危機を契機に国からは出勤7割削減要請が出されました。
病院等の公共の社会的機能維持に資する施設以外はテレワークの運用が整備出来ていないという状態は、従業員への安全配慮義務(労働契約法5条)履行の観点からも望ましい状態とは言えません。

 

2. テレワーク導入にあたっての労務管理

2-1. 就業規則の整備

テレワーク導入時の労務管理において盲点になりやすい点として、「就業規則の整備」が挙げられます。
労働基準法は正社員、アルバイト問わず、「労働者」に該当すれば会社として脱却することができない法律であるために、冒頭に述べさせていただきます。


同法15条では労働者に対し、賃金や労働時間の他に就業の場所に関する事項を明示しなければならないと定められています。現時点でテレワーク(在宅等)を定めていない場合、実務上は、就業規則の変更で対応します。手順としては、変更の(労働者代表への)意見聴取、(所轄労基署長へ)届出、(労働者への)周知の3段階を踏む必要があります。
有事の場合は「そのような悠長なことは言っていられないのではないか?」との反論もあると予見できるでしょう。しかし、「理論上は」前述の手順を踏むことが明記されています。

 

また、労働者から、主目的が居住空間である自宅では(子供が在宅中の場合は尚更)勤務はできないと主張された場合に、休業扱いとして休業手当支給可否の論争に巻き込まれることも予見し得ること。また、社会的にも(在宅等の)要請実績があったという事実。今後も起こり得るということから、今回を契機として入れておくべきでしょう。

 

2-2. 機密情報対策

テレワークの場合、避けて通れない問題として、機密情報対策があります。
在宅の場合は、家族間であっても対策は打つべきです。例えば、Zoomで会議中に機密情報が映り込んでしまうことや、イヤフォンで音漏れを防止していたにも関わらず自身が内容を復唱した為に、漏洩してしまうこと等が想定されます。
基本的な対策としては、夫婦共に在宅の場合等は、複数の個室があれば分かれて作業することとします。一つしかない場合は、時間割を作成して、個室使用時に機密情報が含まれる業務に充てる等して対応すべきでしょう。

 

自宅外(公共施設)の場合はのぞき見防止フィルターを張る等の対策が必須です。そして、言うまでもなく、USBを置き忘れてしまった場合も想定してパスワードロックも設定しておくべきです。

 

2-3. 費用負担管理

テレワーク(特に自宅)の場合、通常発生し得ない形での費用(通信費等)が発生します。その場合に生じる費用は、誰がどの程度負担すべきなのかを取り決めておくべきでしょう。
また、複数の選択肢から労働者自身が選択できる状況でテレワークを選んだわけではなく、コロナ危機のような有事の際に業務命令としてテレワークを指示したにも関わらず費用負担の取り決めがなされていないのは望ましい状態とは言えません。

2-4. 作業許容度

前述の費用負担管理と同様の論点ですが、主目的が居住空間である自宅である場合、社内と同様のスペックでの作業を課すのは困難と考えます。
長時間労働に耐え得る備品等の設置、通信速度等、前述の費用負担の取り決めがなされていなければ、有能な労働者であっても、作業環境向上のための設備投資に躊躇してしまうことは想像に難しくないでしょう。

2-5. 健康管理

テレワークであっても「業務」であることには変わり有りません。よって、労働法制に則った労務管理が求められます。一つは労働時間管理です。次に健康管理です。また、災害発生時の対応が挙げられます。

 

労働時間管理については、在宅であっても個人事業主とは解されないため、適切に管理しなければなりません。また、盲点になりがちな点として、管理監督者であっても労働時間が深夜に及んだ場合は、深夜の割増賃金を支払わなければなりません。また、在宅の場合はむしろ職場より労働時間が長くなったとされる報告も公表されています。スタート地点としては、まず、「始業及び終業の時刻」をどのように管理すべきかを明確にしておくべきでしょう。各々の労働者からアクセスできるICTの構築等が想定されます。

 

2点目の健康管理については、当然、深夜労働が頻発するようなこととなると、サーカディアンリズム(体内の生活リズム)を崩す要因となり得ます。よって、可能な限り、正規の所定労働時間に業務が完結するよう啓蒙を図るべきです。

 

最後に災害発生時の対応について、私的行為中等を除いて業務の遂行中に負傷した場合は、業務災害となります。業務災害については、業務遂行性(労働契約関係に基づいたもので、かつ事業主の支配下にあること)及び業務起因性(業務に起因して災害が発生し、傷病等との間に相当因果関係がある)が満たされていることが求められます。よって、当該要件を満たす場合は、業務災害となります。すなわち、健康保険ではなく、「労災保険」にて対応することとなることを頭にいれておきましょう。労災保険は事業主の「助力義務」が規定されていることも念頭におき、適切な労務管理を実施すべきです。

2-6. 子を有する家庭への配慮

今回のコロナ危機のような有事の際は、子を有する家庭の場合、事実上、業務中であっても子の世話を同時並行で行わざるを得ない状況が想定されます。そのような状況を社内で共有しておくことで、不要な軋轢を回避できる場合もあります。このような軋轢はコミュニケーションの減少と共に発生することが多くあります。

 

在宅の場合は、通常時と比してコミュニケーションの減少は否めませんので、労働者のプライバシー権にも配慮しながら「円滑な労働環境の提供」を目的に、適切に情報を取得し、労務管理を推し進めていくべきでしょう。その際には、人によって聴取される項目(特別な配慮が必要な労働者として既に把握できている場合は除く)に差があるのも不自然な話になるので、チェックリストを用意し、そのリストに則り進めていくべきです。(チェックリストは備忘録又は聴取した証跡としても効果を発揮します)

2-7. コミュニケーションの手段

この点は、むしろ年長者より若年層の方が長けている分野と言えるでしょう。電話以外にはChatwork、Zoom、Skype等、それぞれ特徴を把握し、使いこなすべきです。
前述の健康管理の面にも繋がりますが、集合型労働と異なり、分散型労働の場合は部下の健康の異変に気づきにくい環境と言わざるを得ません。「face to face」であるがゆえに気づけた異変も見逃してしまうリスクは否定し難い問題です。
在学勤務であっても、企業には安全配慮義務(労働契約法5条)が課されます。これは、就業規則に記載がなくとも信義則上、当然に課される義務です。労働者の生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮を行うことが求められます。

 

2-8. 労務管理ツール

今まで述べてきたテレワークにおける労務管理を適切に行うには、それに耐えうる労務管理ツールの導入が不可欠であることは言うまでもありません。そこで、多く、市場に販売されている労務管理ツールを選択する場合に、おさえておきたいチェックポイントを整理しやすいよう記載しましたので、ご参考下さい。

 

・始業及び終業の時刻を労働者自身で記録できるツールか?

2020年4月1日の民法改正に合わせ、労働基準法の賃金等の消滅時効が延長されました。ゆえに残業代の遡り請求も2年から5年(当分の間3年)へと延長されました。誤ってはならないのは、例外なく勤怠システムの打刻の時刻イコール労働時間とはなりません。
しかし、テレワークの場合、他に労働時間を把握する術がなく、(最も客観的と評価せざるを得ない勤怠システムに)労働時間を証明する「推認力」が働くと言えるでしょう。同時に労働者にはオフィス以上に打刻の徹底を周知すべきです。(オフィスの場合は、退勤の打刻前に談笑していたことや、インターネットで業務外の使用があった等、複数の証言が得られた場合に労働者からの残業代請求が認められない場合もあります)

 

・ワーニング(警告)機能が付加されているか?

これは時間外労働上限規制対応です。時間外労働は、原則月45時間以内(休日労働除く)に抑えなければなりません。特別な事情であっても、年に6回まで、単月100時間未満(休日労働含む)、2~6か月の「いずれの期間においても」80時間以下(休日労働含む)としなければ「違法」となります。よって、当該時間に近くなった場合にはワーニングが表示され、「管理者及び労働者」が「違法」に気付ける環境を整備しておくべきです。当たり前のように顔を合わせていたオフィスと異なり、体調の異変などに気付きにくいテレワークでは、必須の労務管理機能と言えます。

 

罰則が課されてしまうと社会的信用の失墜や、労働者との信頼関係に亀裂が生じてしまうリスクも孕んでいます。

 

3. おわりに

テレワークにおける労務管理は、現在のビジネスモデルとしてもトレンドの部類に入るでしょう。また、有事に至らなくとも、労働者からの複数の労務受領手段を整備できていることは会社としての対応力の幅として誇るべきと言えます。


また、今回のコロナ危機に直面しておきながら(医療業等の社会的な出勤要請が著しい業種を除き)テレワークの労務管理基盤を整えることができていない企業は、今後の有能な労働者の就職(又は転職)候補に挙がったとしても不安要素として感じられることと推察します。
 

また、現在在職中の労働者からも、同様の見方をされることと考えます。ウイルスは目に見えない敵であり、ウイルス対策としても、通勤を回避するための企業努力の模索は、安全配慮義務の一部と考えます。テレワークを導入する際に、適切な労務管理が準備できているのであれば、まずは、導入し、その後に検証、修正していくことで、よりよい自社オリジナルのテレワーク労務管理ができあがるのではないでしょうか。

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